暑いので、ちょっと涼しくなる話。
もう20年ほど前のこと。
ある晩、夢を見た。
歩いていたら道の真ん中に箱があった。
直感で、これはお骨だと思った。
箱を抱えて急いでお寺に向かった。
お寺に着くと、広い玄関に敷かれたスノコのまわりに、ぎっしりと何足もの靴がある。
法事でもあるのか?でも人影はなくて、ひっそり静かなのが不思議だった。
靴を脱いだ。
ふと、
もし私が中にいる間に、誰かが自分の靴を間違えて履いて出ていったらいやだな、と思った。
なるべく早く済ませようと、足早に廊下伝いに中へ入っていった。
右手に美しい庭がある。左手に障子とか扉がある。
扉のひとつを叩いたら一人のお坊さんが顔を出した。
あまり穏やかでない表情。
理由を話したら、黙ってその箱を引き取ってくれた。
でも、そのお坊さんはニコリともせず、扉をピシャリと閉めてしまった。
頭にきたが、まあ受け取ってもらったから良かった、と安堵して玄関へ戻っていった。
すると、
さっきあれだけ沢山あった靴が、無い。
一足も無い。
私のも、無い。
・・・・・。
だだっ広い玄関を眺めながら途方に暮れていたら、夢から醒めた。
以下は現実の話。。
その夢から数年後に母が亡くなった。
小規模な葬儀で、早い時間から親戚たちが集まってくれて、挨拶を交していた。
和室の待合室に案内していたら、その部屋の入り口に、叔父や叔母の靴に混じって、
やや小さめの黒い靴があった。
誰かお子さんを連れてきたのかな、と思った。
でも子供も若い人も見当たらない。
葬儀の後、自分の家族だけになり、待合室の片付けをざっと済ました。
荷物をまとめて部屋を出ようとしたら、
さっきの小さな黒い靴が、まだそこにある。
家族の者が言う。
「え?誰の?」
「最初からあったの。
もしかしたら、私たちの前に部屋を使った人のかもしれないからこのまま置いておこ。」
年のため、一番小柄な叔母にも尋ねてみたが、覚えがないと言われた。
翌朝、その葬儀場のマネージャさんから携帯電話がかかってきた。
「靴をお忘れになりませんでしたか?」
どうやら、考え得る誰のものでもなさそうだ。
そして、あの夢のことと繋がった。
拾ったものが普通のものではないのでずっと覚えていた。
まあ、靴のことは偶然かもしれないのだけど、今でも不思議な気持ちがする。
私が別の時空間で失ったものが、現実世界で見つかった、
くらいしか発想がないのだけれど、その別の時空間って一体何だろう。
その靴の意味は何だろう。
あまり深くは考えていないけど、ずっと脳にへばりついている記憶。
でも案外、こんなリンクは日常茶飯事に起こっているのかもしれない。
気がついていないだけかもしれない。
忘れているだけかもしれない。
・・・というお話でした。